〔もくじ〕

こころ・からだ・くらし――精神障害の理解と地域生活支援

野末 浩之 著


はじめに

第1章 精神障害とは何か―統合失調症を中心に
 1 まずは「精神のやまい」の理解から
 2 統合失調症について
 (1)疫学‥総人口あたりの統合失調症発症率は約一%
 (2)地域差・民族差・養育態度による差異は認められない
 (3)統合失調症は軽症化している
 (4)発病には神経伝達物質が関与
 (5)症状には陽性症状と陰性症状がある
 (6)治療は薬物療法とリハビリテーション
 (7)再発予防が課題となる
 (8)長期予後

 3 精神障害とは何か
 (1)病気と障害  
 (2)障害をさまざまな側面から見る      
 (3)精神障害の特徴は      
 (4)障害の影響と再発の問題

第2章 地域生活支援の実際
 1 回復のためのモデル
 (1)モデルその1
 (2)モデルその2
 (3)リカバリーとエンパワメント

 2 精神障害を持つ人への地域生活支援の実際
 (1)支援事例1(Aさん 男性 六三歳 統合失調症)
 (2)支援事例2(Bさん 女性 五六歳 統合失調症)
     
 3 地域生活支援を進めるには
 (1)アセスメントの大切さ
 (2)カンファレンス
 (3)失敗事例に学ぶ 

第3章 他の精神疾患を理解する
 F0 症状性を含む器質性精神障害
 F1 精神作用物質障害による精神および行動の障害(アルコール依存症など)
 F3 気分(感情)障害(躁うつ病、うつ病)
 F4 神経症性障害、ストレス関連性障害および身体表現性障害(パニック障害など)
 F5 生理的障害および身体的要因に関連した行動症候群(摂食障害)
 F6 成人の人格および行動の障害(パーソナリティ障害)  
 F7 知的障害 
 F8 心理的発達の障害(自閉症)
 F9 小児および青年期に通常発症する行動および情緒の障害  

あとがき

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〔はじめに〕

 こころの障害を持つ人が「地域で暮らしたい」と願ったとき、もはや正面きってそれに抗弁する人はいません。この十数年の間になされた数々の法律改定においても、遅々とした歩みではありますが、精神障害者の地域生活支援を推進する立場からの変更が加えられています。
 けれども「総論」賛成の一方、「各論」の部分では試行錯誤が続いています。さらに障害者自立支援法に見られる受益者負担の考え方は、緒についたばかりの地域生活そのものを破壊してしまう恐れがあります。今ひとつの大きな困難は、支援者の、精神障害者の「生活障害」についての理解がまだまだ不十分であることでしょう。それは、依然として根深く残る精神障害に対する無知や偏見とあいまって、精神障害者の地域での暮らしを困難なものにしている可能性があります。
 本書で伝えたい三つのたからもの……それは、支援者に求められる三つの視点、「こころ」「からだ」「くらし」をキーワードに、地域生活支援を組み立ててゆく姿勢を指します。私たち支援者がこころを病む当事者と接するとき、常にこの三つの方向から、本人を理解してゆくことが大切です。
 第1章では統合失調症と精神障害の成り立ちを、そして第2章では、すべての支援者――ホームヘルパー、ボランティア、施設や行政の支援職員、そして当事者自身――にも役立つ、実際の地域生活支援の方法や考え方のヒントについてアドバイスします。第3章ではその他の精神疾患について説明します。とくに、「生活のしづらさ」を背負って生きる人たちの、生活場面での特徴や行動を、具体的に解説してゆきます。
 
 国民のメンタルヘルスが悪化し、誰もがこころの病と無縁ではいられない時代です。精神障害者の生活や就労についても、地域の人々の誤解が解けつつある状況も見られます。支援者が正しい知識と支援のコツを身につけることによって、ピンチをチャンスに変えることができるでしょう。
 本書が、地域で日々苦労を重ねながら生活している精神障害当事者の、一助となることを願ってやみません。

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〔あとがき〕

 かつて働きながら、独り暮らしをしていた時期があります。それまでと異なり、炊事、洗濯など家事のすべてが、大きな課題として眼前に現れてきました。家事労働を作業として分析できたのもそのお陰ですし、急に体調を崩したときの医療機関の頼もしさや、おかずを分けてくれるご近所の有難さを実感できたのも良い経験でした。地域で単身生活を続けながら通院してこられる精神障害者の皆さんを、「生活者」として強く意識するようになったのもこの頃からです。
 当時のわたしは精神科医師として、精神障害者の治療技法の習得に専心していました。研修したみさと協立病院では、生活臨床という卓越した理論を学ぶことができ、SST(社会生活技能訓練)も知ることができました。けれど今思えばわたしの理解は、脳の病気=「からだ」からの観点が中心だったようです。生活者=「くらし」の視点を取り入れる上では、数年に及ぶ単身生活が有用でした。
 その後、慢性精神障害者への精神療法を続けている心理療法家と出会い、それぞれの支援技法の基底にある当事者の「こころ」へと、理解を進めることができました。SSTは当事者の認知に行動をとおして働きかける技法であり、生活臨床には「くらし」の視点が欠かせません。これらの優れた支援技法は、当事者の主体的な参加を前提としています。そのためにも、当事者の「こころ」がどのような状態にあるのか、共に検証してゆく姿勢が支援者には求められているのです。
 本書では医学的理解や技法を解説するだけでなく、これまでの解説書が当たり前のこと、としてあまり触れずにいた「当事者のこころに寄り添う作業」が、すべての支援の基礎にあることを、繰り返し指摘しました。地域生活を続ける精神障害者とその家族、支援者の役に立つならば幸いです。
 執筆に協力いただいた当事者の方々、資料を引用させて頂いた先生方、日常の業務と勉強会で共に学んでいる仲間たちに、御礼申し上げます。

              2007年5月  バンマツリの花の色を愉しみつつ
                                               野末 浩之

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