著者プロフィール
陣内 雄次(じんのうち ゆうじ)
宇都宮大学教育学部住環境・まちづくり研究室教授。
特定非営利活動法人宇都宮まちづくり市民工房理事長。
・アメリカ、カナダの大学および大学院にて都市計画・地域計画を専攻。
・帰国後、東京、金沢の民間シンクタンク(研究機関)にて、都市計画、地域計画、観光 計画等の業務に従事。
・1998年3月 学術博士(金沢大学)。
・1999年4月 宇都宮大学教育学部へ赴任。
・「まちづくり学習」をキーワードに、学校と地域、子どもと大人の連携によるコミュニティづくりの新しいあり方を模索中。
・<ソノヨコ>では「まちづくりカフェ・コモン」をオープン(毎月1〜2回程度、金曜 18時〜21時)。
<連絡先> TEL&FAX:028-649-5366 e-mail:jinnouhi@cc.utsunomiya-u.ac.jp
荻野 夏子(おぎの なつこ)
石川県生まれ長野県育ち。15歳でオーストリアに音楽留学。帰国後、ドイツ語の通翻訳などに携わり、1997年栃木県に転入した。子育てを機に学童保育・NPO法人の設立(その後解散)や中間支援団体の職員などを経験。NPO法人時代の顧問だった陣内の研究室でまちづくりの見習い修行をしている間にソノヨコ立ち上げに関わることになった。2006年よりNPO法人「仕事と子育て両立支援センター」の理事・事務局長として、地域通貨の仕組みを応用したNPO版ベビーシッターサービス「エンジェルライン」
(http://www.angel-line.jp/)の普及に努める。一児の母。栃木県宇都宮市在住。
田村 大作(たむら だいさく)
宇都宮短期大学付属高等学校調理科卒業。卒業後、調理師免許を取得し、宇都宮にてフレンチレストラン「ポンヌフ」「ル・ゼフィール」「アペリティーボ」、東京の「レストランひらまつ」で修行し、その後、益子町のペンション「サイト」の料理長へ。独立後にはフリーの調理人として活動しながら、2006年11月5日に念願であった食事と木工と陶芸を楽しむことができるギャラリーを設立。栃木県益子町にて「Gallery 食と木と陶 WORK SHOP 770」をオープンし、現在、陶芸家の妻・香織と息子(良、1歳)の3人家族(愛犬のマグ)でギャラリーを運営している。調理師のほか西洋料理専門調理師、調理技能士の資格取得。
「Gallery 食と木と陶 WORK SHOP 770」の連絡先: TEL・FAX 0285-70-6089
戻る はしがき――半径400メートルの幸福
ペリー(C.A.Perry)が「近隣住区論」(The
neighbourhood unit)を発表したのは、80年程前のことである。通過交通を極力排除、住区内を歩行者優先の空間にするというコンセプトである。そのため、一つの住区の単位は半径400メートル程度とし、中心に教会、小学校、コミュニティセンター、公園などを配置する。商店やレクリエーション施設などは住区を囲む幹線道路沿いに限定する。半径400メートルのエリアというのは、徒歩でも無理なく行き来できる範囲だとペリーは考えたのである。そのような徒歩中心の自己完結的な住環境を整えることにより、住民相互のコミュニケーションを密にし、コミュニティを成立させようと試みたのである。このペリーの理論は、ニュージャージー州のラドバーンで見事に実践され、その後、各国における住宅地計画のモデルとなってきたのである。
私が最初に留学したのは随分以前のことであるが、講義で「近隣住区論」とラドバーンをはじめて知った時の心揺さぶられた感動は今でも鮮明に覚えている。当時はパワーポイントなどという洗練されたプレゼンテーションツールは当然ないので、もっぱら事例紹介はカセット式のスライドが使用されていた。映し出されるラドバーンの美しい住宅地の街並みと、そこで暮らす人々の日常生活の様子を垣間見、「こんな街を日本でも実現できたら」と思ったものである。
ペリーの理論の優れた点は多々あるが、私が最も重要だと考えるのは、1920年代当事に都市化の進行に伴う人間関係の希薄化とそれに伴うコミュニティの問題を予見し、その予見とは反対の住宅地を創り上げようとしたことである。ひるがえって、わが国の戦後は高度経済成長を経てコミュニティ崩壊の時代であった。21世紀となり、少子化の波は上下しつつも続き、そして「超」高齢社会へと突入した。このままでいけば、コミュニティ崩壊からコミュニティ消滅という、最悪のシナリオが現実のものとなる地域も出現するかもしれない。
最悪のシナリオを回避するためにも、今一度、ペリーの理論に立ち戻ることが重要である。同時に、次々と展開されつつあるコミュニティ再生の試みを、疲弊しきった行政に頼ることなく、市民自らが積極果敢に取り入れていくべきである。そのような試みのひとつがコミュニティ・ビジネスである。コミュニティが抱える問題を市民の力で解決し、そのプロセスをすべてボランティアに任せるのではなく、有償にできる部分は有償とすることにより活動の継続性と専門性を高めようという動きである。
半径400メートル内に形成される自己完結型コミュニティを空間形態の側面から追求したペリーの理論に、コミュニティ・ビジネスの志向を融合させることにより光明が見えてくるかもしれない。
まえおきが長くなってしまったが、本書はコミュニティ・ビジネスの一つの形態としてのコミュニティ・カフェの取り組みを紹介するものである。コミュニティ・カフェの立ち上げと運営に携わってきた初心の素人と、取り組みを支えてきてくれた料理のプロが、それぞれの立場と切り口から、理論、店舗整備と運営の実際、レシピを紹介している。「コミュニティ・カフェをやってみたい」と思っているヒトビトの強力な助っ人となるであろう。
本書で取り上げるコミュニティ・カフェの建物は、オーナーTさんのご厚意により無償でお借りしている。Tさんの奥様からのはがきの一文を紹介し、筆を擱く。
やっと本格的な梅雨に入った、と云う感じです。
昨日は、上等なお菓子をお届け下さりありがとうございました。いつもお心にかけて下さり恐縮いたしております。厚く御礼申し上げます。
御活動の様子をいつもいつもお知らせ下さり、楽しく拝見しております。お店も日替わりで毎日オープンしているとのこと、古い家も利用していただき喜んでいる事でしょう。 先ずは御礼申し上げます。
(2007年7月 オーナーTさんの奥様のはがきより)
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目 次
はしがき
T.まちづくりの視点から見たコミュニティ・カフェ 陣内雄次
1-1 いま、なぜコミュニティ・カフェなのか [陣内雄次]
自分たちの地域は自分たちで
「市民育ち」の基地として
●コラム:コミュニティのもったいない資産の活用
1-2 コミュニティ・カフェ<ソノヨコ> [陣内雄次]
コンセプトは「地域の縁側づくり」
●コラム:とちぎ市民まちづくり研究所とそのメンバー
1-3 コミュニティ・カフェの社会的意義 [陣内雄次]
コミュニティとカフェ
●コラム:ゲーテッドシティ化の兆候
縁側の魅力
コミュニティ・カフェと縁側づくり
●コラム:駄菓子屋「飴ん坊」を通して見えてきたこと
コミュニティを支えるビジネスとして
1-4 出店者から見たコミュニティ・カフェ<ソノヨコ>の存在意義 [陣内雄次]
「人生の大黒字」と「人儲け」
●2006年12月当時の営業一覧表
TESiO(テシオ)…荻野さんのお話
CACHE-CACHE(カシュカシュ)…柏木店長のお話
おうちごはんカフェ蓮家…初代代表、井出さんのお話
Balloon(バルーン)…葛貫さんのお話
B−alance(ビーアランス)…藤原さんのお話(出店当時)
まちづくりカフェ・コモン…筆者、陣内の弁
●コラム:地域の縁側=団塊世代の溜まり場
1-5 利用者・支援者から見た<ソノヨコ>の存在意義 [陣内雄次]
来店する度に新しい発見…楠本さん
初めて会う客とも話せる雰囲気がいい…溜池先生
<ソノヨコ>には料理人が学ぶ「原点」がある…田村さん
ストレス解消……主婦の溜まり場かな…Hさん
手作り感があって温かみがある場所…Oくん
1-6 他の事例に見るコミュニティ・カフェの存在意義 [陣内雄次]
行政の思惑+学生の思いが中心街活性化へ…bspカフェ
地産地消・スローライフがコンセプト…農園レストラン「アトム」
障害者自立支援の拠点づくり…コミュニティレストラン「なずな」
●コミュニティ・レストラン「なずな」の営業スケジュール 2006年11月6日時点
1-7 つながりの広がりと市民育ち [陣内雄次]
<ソノヨコ>を起点とする地域の縁側づくり
<ソノヨコ>の経験が異分野にも活かされる
社会人と学生の共同研究が結実した「環境マニュアル」
●コラム:社会的起業を支える人々と仕組み
●ソノヨコ環境宣言『できたらいいな』
U.コミュニティ・カフェ<ソノヨコ>ができるまで 荻野夏子
2-1 コミュニティ・カフェ<ソノヨコ>の誕生 [荻野夏子]
コミュニティ・カフェ<ソノヨコ>
「学生中心の店」を夢見た頃
「学生中心の店」の現実
現実とのすりあわせへ
蓮家プロジェクトから<ソノヨコ>プロジェクトへ
2-2 ソノヨコ立ち上げから学んだこと [荻野夏子]
コミュニティ・カフェの開店と運営の心得
営業時間より、仕込みなど準備の時間の方が実は長かった
原価率は三割・家賃は最大営業三日でカバー
意見は聞いてもみんな仲良し横並びでは店はできない
専門家の話にすべて従わなくてもいい
頼むべきところはプロに頼む
広い店には人手もかかる
「自腹を切る」思いで臨む姿勢が必要
担い手がいなければ店の営業はできない
自腹は切ったほうがよい
いくら共同店舗でも全体コンセプトは必要
店は「私たちの店」ではない
2-3 共同で運営するカフェの仕組み [荻野夏子]
運営の仕組みと組織
運営上の工夫
@運営委員会
Aメーリングリスト
Bブログ
事務局との取り決め
@原状復帰
A揚げ物・刺身などの生もの・酒は禁止・夜は9時まで
B報告義務
C出店料
現場のルール(出店者同士の取り決め)〜消耗品び共同購入
共同店舗特有の困難性
@スペースの問題
A仕込みの問題
B継続性
運営コスト
想定されるトラブル(対内的な知恵と対外的な知恵)
@営業時のトラブル
A飲食につきもののトラブル
Bテイクアウト
地域との関係づくり
@地域との関係づくり
Aご近所の商売を邪魔しない
B地域のイベントにはできるだけ参加する
2-4 店舗整備の実際 [荻野夏子]
人海戦術で壁紙剥がし
@準備
A壁塗り
専門家の領域とシロウトの出番
B設備
C床
仕上げは強力な助っ人・坂本さん
Dカウンター整備
●店舗整備の道のり(ソノヨコphoto album)
E使った資材と入手先・コスト
飲食業の回転に必要な許認可
F許認可
G衛生検査(検便)
食中毒や火災など、安心・安全の備えは万全に
H保険
I安全上の留意点
内装は各店舗の個性を吸収する無色透明に
J共同店舗の設備と内装・什器備品
V.コミュニティ・カフェのこれから サスティナビリティ
3-1 まちづくりにおける「アパシー」問題 [陣内雄次]
「アパシー」のこわさ
アパシーからシンパシー
3-2 現場および市民の視点から [荻野夏子]
楽しさが原点
地域住民の信頼を得ることが大切
●現在の出店一覧(2007年5月の営業一覧)
主役は一般の人、周囲の人が集まる
<ソノヨコ>の体験を次のステージへ
3-3 安全な食材を楽しく食べる [田村大作]
飲食業の視点から見たコミュニティ・カフェの営業
提供する側が「何をしたいのか」を明確にする
お店の「バランス」と「センス」を大切に
周りでアドバイスするプロの方へ
W.<ソノヨコ> レシピ集 田村大作
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あとがき
新しい何かをやろうとすると、必ず「それはやめたほうがいい」とか、「難しい」とかいう人が出てくる。別に「自腹で自ら望んでやるんだからいいじゃん」という理屈は、そういう人には通じない。税金使ってやるならともかく、自分でリスクをとってやるならば、応援しても別にソンはしないと思うのだが。
<ソノヨコ>に出店してきた人の中には、<ソノヨコ>に関わる前から、ずっと自分の中で、「こういうことをやりたい」というイメージを温め続けてきた人もいた。「いいですね。ここを使って、試してみたらどうですか? ダメもとですし」というと、びっくりしたようなうれしいような顔をされる。きっと、「難しい」「やめたほうがいい」と、周囲にいわれ続けてきたのだと思う。そういう人は、いざスタートしようとすると、マタニティブルーではないが、「ホントにできるんだろうか」と直前に二の足を踏む傾向があるようだ。真剣に考えているからこそ、考えすぎてしまうのかもしれない。
アタマだけで考えていたって先に進まない。考えるだけ考えたら、あとはやるしかない。「いつかやろう」だけではそのいつかはやってこないのだ。
ちょっとしたきっかけやネットワーク、情報、そして周囲のほんの少しの励ましや応援が得られることで、その「いつか」が「今」に変わっていく。そんな流れをつくりたいと願いながら「市民の手による市民のためのコミュニティビジネス支援施設」という能書きを<ソノヨコ>の前にくっつけたのが、今から2年半前の2005年1月のことだった。
シミュレーションの場として使ってみたり、アンテナショップとして使ってみたり、活動のプラットフォームとして使ったり、あるいは単に楽しいから参加したりと、コミュニティカフェの使い方はさまざまである。それを次の展開につなげられる人もいるし、そのままで終わる人もいる。淘汰されていく活動もあるし、生き残る活動もある。一発屋みたいな人もいれば、道楽でやっている人もいる。それはそれでよいのだと思う。
ただ、それらを可能とさせた人・情報・場などの資源は、地域から得てきたものだ。だから、いつかは周囲に転がっている仕事の山=地域の課題に気づく人、さらには、それらの課題に目を向け、手つかずの分野で新しい仕組みや流れをつくる社会的起業家を育てて地域に送り出せるような<ソノヨコ>になりたいと、私たちは願っている。
そういう人が育って地域に散らばっていくことで、新しい流れや共生の仕組みができて、なにかが地域の中で少しずつ変わっていくかもしれない。そのための<ソノヨコ>でなければ、コミュニティカフェではなくてタダのカフェ、地域の縁側ではなくてフツーの縁側だろ、と思う。
今回の本づくりを通じて、新しいものを生み出して、地域の中の新しい仕組みにつなげるという<ソノヨコ>の役割や存在意義が改めて自覚された。全体の内容をまとめていくなかで、私たち執筆者にも、多くの議論や気づきの機会が与えられた。<ソノヨコ>の活動は、期間的に短く経験的にも浅いわけで、まだ完結されたものではないし問題点も多々あるもしれない。したがって<ソノヨコ>の活動に対し、この本を読んだ方々から忌憚のない意見や感想をお寄せいただければたいへん有り難いと思っている。
出版にあたっては、この本の誕生はそもそも<ソノヨコ>があって成し得たものであり、<ソノヨコ>の整備や運営に関わってきた方、周囲で支えてきてくださった方や地域のみなさま方の日常的な働きかけや協力に対して、まず深い感謝の気持ちをささげたい。また、萌文社の永島憲一郎さんには編集者としてだけではなく、地域に対する思いや志をもった先輩としても真剣に対峙し、考えることをサボっていたことがらを掘り下げ、こじあける促しをいただいた。そして多くの人の力添えがあって、この本が完成できたことを記して、みなさまに厚くお礼を申し上げる次第である。
2007 8月 荻野 夏子
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