はじめに
最近、精神障害者と接する職種が増えてきました。ということは、精神障害者は、いろいろなところで支援を受けながら生活しているということです。かつて病院か、家庭で暮らしていたのですが、今は、小規模作業所・授産施設・保健所やメンタルクリニックのデイケア・地域支援センターで昼間生活し、夜は、一人ぐらし・グループホームという人も増えてきました。在宅の方に対しても、保健婦の訪問だけでなく、訪問看護(とくに訪看ステーション)が対象を精神障害者にひろげています。またホームヘルプ事業で、精神障害者の生活支援をするヘルパーも激増しています。その状況は昭和四〇年精神衛生法改正により、保健所が精神保健の第一線と位置づけられた時とよく似ています。そのときも、大いに活気づくと同時に、どう扱ってよいか大混乱したものでした。
この本には、困惑する保健婦(当時)に対する手引き書としてかかれました。そのときの、狙いは「訪問して現場で生活支援をする」「そのことで再発・再入院をくいとめる」ことにありました。今風にいえばアウトリーチ・クライシス・インターベンションです。
しかし、その後の保健所・公衆衛生は衰退・統廃合の一途をたどり「先手にうってでる活動」はしりぞき、退院した人のフォロー、おちついている人に対する、福祉的リハビリテーションが中心となってしまっています。
一方、最近の精神障害者の入院は短期化し、平均三か月でほとんど退院して来ます。超長期入院者を退院させる動きもつよまり、これまで民間の努力で増やしてきた地域の受け皿づくりでは間に合わなくなってきています。
地域で障害者をささえるということは、医療・働く場・住むところ・仲間づくり――それらの一切を支える経済的保障がくみ合わされなければなりません。職種だけとっても、医師、看護師、ケースワーカー、OT、保健師、臨床心理士、事務、ヘルパー、福祉事務所のワーカー、ハローワークの職員、さらにボランティア、家族……と多種多様です。
こうなると、一つのケースについて必要な援助をコーディネートする役割が必須となります。現状では、このコーディネーターがはっきりしません。それ以上に、いろいろな生活支援をくみたてるとき、責任をとる人(役所)もはっきりしていません。これが志あれど、もう一歩ふみこんだ支援ができない理由です、以上が地域生活支援をめぐる現実でしょう。
この本の原本が書かれてから三〇年以上たち、項目も内容も現状に合わなくなりました。我が国の現状を“よし”としているわけではありませんが、新しくこの世界に入ってこられた人々のためにも大幅改訂をする必要があります。改訂の重点は「精神保健のための…」から「地域生活支援のための…」です。新しく入ってこられた人には、安心と勇気を、ベテランには「ふりかえり」と更なるスキル・アップを願っています。
(いろいろな質と量で、生活支援する多くの職種を一括代表するコトバとして、ここでは「援助者」というコトバをつかいます)
執筆にあたり頭においている病気は統合失調症です。今、世の中にはひきこもりやPDSD、ADHD、虐待、ボーダーライン、摂食障害やパニックが脚光をあびていますが、それらにはふれていません。統合失調症の見きわめ、扱い方、チームのくみ方、対応の仕方を知らずしてこれらの病気(?)を扱うことはできません。統合失調症を扱えればその応用でこれらの偏異は扱えるからです。ということは疾患症は統合失調症が一番むずかしいということです。