「構造改革」と社会保障−介護保険から医療制度改革へ

(執筆者紹介)

伊藤周平 (いとう・しゅうへい)
 1960年山口県生まれ。東京大学大学院社会学研究科博士課程修了。現在、九州大学大学院人間環境学研究院助教授。専攻は社会保障論、社会政策論。
 主な著書に『社会保障史 恩恵から権利へ』(青木書店、1994年)、『福祉国家と市民権』(法政大学出版局、1996年)、『介護保険−その実像と問題点』(青木書店、1997年)、『介護保険と社会福祉』(ミネルヴァ書房、2000年)、『検証介護保険』(青木書店、2000年)、『介護保険を告発する』(編著、萌文社、2001年)、『介護保険を問いなおす』(ちくま新書、2001年)。
 社会保障の改革という名のもとに、その空洞化と解体が進んでいる現在、生活者の視点に立った社会保障の理念の再構築と政策提言が求められている。筆者は「権利としての社会保障」の立場から、社会保障の政策分析をすすめ、そのあるべき方向性を提示していくことを研究の最重要課題としている。


(この本の書評)

 今、地域では多くの高齢者や障害者が、小泉構造改革の烈風に吹き飛ばされ、行き場を失って生きていく条件と意欲を奪われている。とりわけ医療・介護の現場で働く職員は、無残な命の終末にたびたび遭遇している。ますます強行される社会保障解体の政治情勢のもとで、社会的弱者の日々の暮らしを支えて働いている多くの関係者が、なかなか展望を見出すことができず、必死で苦闘・摸索している。
 そのような人々に、伊藤氏がわかり易い語り口で、豊富な図表・資料を駆使して困難な情勢の突っ込んだ分析を行い、介護保険、医療制度改革を切り口に、わが国における真の社会保障理念確立の意義と、福祉国家的合意づくりの手順について提起を行っている。
 全体は序章と六つの章で構成され、第一章では一九七○年代半ば先進諸国で台頭したニューライト(新自由主義)についてイギリス、アメリカでの政策遂行と問題点に触れている。第二章以降から日本における社会保障政策の動向と「構造改革」について展開される。
 ここで一番印象深いのは、介護保険導入・医療制度改悪によって、いかに国民が激痛をうけているか、伊藤氏が多岐にわたる分野の資料をじつによく調べ、実態(数字だけでなく現場の心)を掴んでいるかが、医療・福祉を担っているわれわれにもよく伝わってくることだ。氏は一学者としてだけでなく、福岡における社会保障推進協議会の運動、とくに高齢者の「介護保険一揆運動」を理論的に支える上で大きな役割をはたされている。
 「あとがき」で筆者は触れているが、祖母の終末期、家に帰れないまま他界されたことに対する肉親としての悔悟の思いは、今、同様に年老いた両親の介護を背負いながらも仕事に追われ、ままならない思いをいだいている私の世代には胸に迫るものがある。
 「構造改革」の名のもとに、社会保障がその理念もふくめて、大きく変容されようとしている現在こそ、原点に立ち戻って、社会保障思想・理念の原理的な研究と検証の必要性を示唆する伊藤周平氏の労作を、ぜひ多くの方におすすめしたい。

      (富士見通り診療所 事務長・宮脇 正和/『ゆたかなくらし』03年1・2月合併号より)

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