子ども・若者の参画
R.ハートの問題提起に応えて

  目 次  刊行に寄せて  あとがき

目 次

  刊行によせて〈ロジャー・ハート〉 4

[T]なぜ子ども・若者の参画なのか 11
 1.子どもの参画とストリートワイズ〈木下 勇〉 12
   1 サッカーと参画/12
   2 遊びと参画とストリート/15
   3 学校と地域/17
   4 子どもの参画能力/19
   5 参画の仲介組織/20
   6 コミュニティのイメージ/21
   7 子どもが動いて大人が動き出す/23
   8 持続可能な開発と地域コミュニティ/25
 2.参加・参画論の展開と理論的課題〈新谷 周平〉 28
   1 はじめに/28
   2 参加・参画論の展開/28
   3 ロジャー・ハートの参画理論/31
   4 子どもの参画の理論的諸課/33
   5 おわりに/39
 3.子ども参加と教育福祉〈石原 剛志〉 42
    ―ハート『子どもの参画』を教育福祉の視座から読む― 
   1 教育福祉の視座と子どもの参加に関する研究/42
   2 グローバリズムに対する新たな選択と『子どもの参画』の意義/43
   3 ハート『子どもの参画』における教育福祉論的視座/45
   4 日本の子どもの参加実践・研究への提起/47

[U]意見表明・意思決定と参画 55
 4.ハートの「子どもの参画」を読み解く〈喜多 明人〉 56
   1 問題設定/56
   2 子どもの権利条約時代とハートの子ども参加論/57
   3 子ども参加への社会的ニーズの高まりと日本における子ども参加支援の展開/61
 5.子ども・若者の政治参加〈林 大介〉 66
    ―社会的意思決定の場に子ども・若者の参画をすすめよう―
   1 はじめに/66
   2 世代間不平等の拡大と世代間均衡/67
   3 選挙権・被選挙権年齢の引き下げが世代間不均衡を是正する/68
   4 子ども・若者の政治参加・社会参加の萌芽/69
   5 市長選挙の有権者は19歳以下!!〜「ユースもぎ投票」の取り組み/70
   6 子ども期からの「市民参画」の保障が自己決定能力を高め、自己肯定感を高める/72
   7 “子ども”は判断能力がない……?/73
   8 “子ども”の参画から“子どもとおとな”の参画へ/74
   9 未来を生きる若者にこそ未来の決定により大きな責任を/75
 6.フリースクールと子ども・若者の参画〈朝倉 景樹〉 77
   1 「参画・参加」という言葉・概念/77
   2 フリースクールにおける参画・参加/79
   3 参画に欠かせないもの/84
   4 最後に/85
 7.NGOと「子どもの参画」〈吉田 里江〉 88
   1 はじめに/88
   2 行為主体としてのNGO/89
   3 NGOと「子どもの参画」/90
   4 日本における子どもの参画の課題と展望/95
   5 おわりに/97

[V]総合学習と参画 99
 8.「総合学習の時間」と子どもの参画〈小澤 紀美子〉 100
   1 なぜ、「総合的な学習の時間」は創設されたか/100
   2 探求・体験型学習としての「総合的な学習の時間」/102
   3 実践にみる「総合的な学習の時間」/104
   3 おわりに/107
 9.学校ビオトープと参画〈平山 明彦〉 109
   1 ビオトープと学校ビオトープ/109
   2 学校ビオトープとスクールデモクラシー/111
   3 ビオトープと子どもの参画/112
   4 子どもの参画によってつくられたビオトープ/114
   5 子どもの参画を妨げるもの/116
 10.生徒・教師・市民がつながる環境学習〈妹尾 理子〉 118
    −子どもの参画を支えるコト・ヒト・モノ−
   1 はじめに/118
   2 高校生の環境学習と参画の事例/120
   3 参画を支えるコト・ヒト・モノ/125
   4 おわりに/128
 11.開発教育と「子どもの参画」〈小貫 仁〉 130
   1 開発教育とロジャー・ハートの環境教育/130
   2 開発教育のカリキュラムと子どもの参画/132
   3 コミュニティの課題としての「人間貧困」/133
   4 アクション・リサーチで世界につなぐ/135

[W]まちづくりと参画 139
 12.子どもの参画とまちづくりを促すアクション・リサーチ〈田中 治彦〉 140
   1 アクション・リサーチとは?/140
   2 池袋西口アクション・リサーチ/143
   3 小・中学校での取り組み/144
 13.遊び空間への参画〈筒井 愛知〉 148
    ─遊び場調査で魅力的な遊び場を─
   1 家庭に持ち込まれた新たな遊び空間/148
   2 子どもの遊び空間/149
   3 子どもの参画としての遊び場調査と公園づくり/153
 14.地域における共同性をどう捉えるか〈呉 宣児〉 158
    ─「原風景語り」をとおして「参加」の意味を考える─
   1 はじめに/158
   2 「原風景」という切り口で「地域」を見る/159
   3 「語り」という切り口から「参加・参画」を考える/161
   4 原風景を語り合うなかで何が起こっているのか 162
   5 語り合いの場の「共同性の生成・変容」は、何を示唆しているのか/166
   6 ファシリテーターの新たな視点として/169
 15.「まち育て」の中の子どもの参画〈延藤 安弘〉 174
    ―参加する意識づくりのプロセス―
   1 〈キモチ〉〈カタチ〉〈イノチ〉が循環する「まち育て」/174
   2 生きることは身体が環境とかかわること/176
   3 気づき、好奇心、センス・オブ・ワンダーの育み/179
   4 子どもが身近な環境を居場所にする/180
   5 環境の呼びかけに応え、表現・発表する/182
   6 開かれた関係と身近な環境ケア/184
   7 参加とは生きる姿勢/186
  あとがき 188
  参考文献 191
  子どもの参画情報センターの研究例会[活動経過] 195
  執筆者一覧 196
  「子どもの参画情報センター」設立の趣意書 198

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刊行によせて 

 子どもたちが参画する機会を改善しようとする運動は、市民としての子どもの権利を確立するための当然の主張として、地球規模で成長を続けています。ただし、この運動が、多くの国で、いまだに専門領域の壁を突破できたものとはなっていないことは残念です。その点で、日本で始まりつつある異なる専門家どうしの共同作業の進展には目を見張るものがあります。国連会議による「子どもの権利」の批准がなされて以降、子どもたちの参画の権利について、それぞれの専門家グループによってそれぞれ異なった強調と取り組みがなされています。また国によってもその強調の仕方は違っています。
 たとえば、世界の貧しい国々では、ストリートワーカーやソーシャルワーカーたちによる周辺に押しやられた子どもたち、すなわちストリートで働き、暮らしている子どもたちへの支援が行なわれています。これらの子どもたちの視点・声を聴き届けることが活動に役立てられています。一方、イタリアでは、建築家や都市計画の専門家が、地域の重要な都市計画の決定に子どもたちを関与させるための新しい方法を開発しつつあります。フランスでは、教育の専門家たちが地域行政の委員会に子どもたちが参画するためのアプローチを発展させています。スウェーデンでは、交通プランナーたちの努力によって、たくさんの子どもたちが交通の評価に参画し、自分たちが自由に動け、遊べる安全性の高い環境づくりを行なっています。
 本書の内容からうかがえるのは、いま日本で幅広い領域の専門家が一つの屋根のもとに意気を投じて結集しているということです。通常、環境の専門家が社会開発の分野の人々と会うことはまれです。そして環境の領域においても、「グリーン」を標榜する環境運動家が、建築家や都市プランナーの「グレイ」の目標に協力することはほとんどありません。もし、子どもの参画に関する異なる専門家どうしの領域を越えた協力が日本において、このような水準で持続されるならば、各プロジェクトはお互いにもっと統合されたものになるでしょうし、その国は、21世紀の持続可能な発展を実現するやり方について世界に対してリーダーシップを示すことができるでしょう。

 コミュニティの持続可能な発展に関してもう一つ注目すべきことは、本書で海外での開発や「開発教育」の分野の人たちの重要な貢献が含まれているということです。子どもたちが自分たちのコミュニティに関与するだけではまだ充分ではありません。自分たちの生活がどれほど、もっとも貧しい国々の人々の生活と相互にかかわり合っているかを、子どもたちが認識することが大切です。また、環境とコミュニティの決定に関与することが、直接には決して会うことのない人々に影響を与えるということについても認識を深めるべきです。
 もっと一般的な事柄として興味深いのは、現在日本で行なわれているさまざまな取り組みの実例から、子どもたちが決定にもっと関与することによって 学校が活性化し、地域への関わりを増していく方策が探求されていることです。世界中で、学校はいまだに不必要に権威主義的なセッティングのままであり続けています。それはかつて工場での単調な仕事に、疑問をもつことなく働くことのできる労働力へと子どもたちを備えさせるためにデザインされた制度とまったく変わっていません。

 私は、これからの数年間で日本でのさまざまな取り組みが開花するのを見ていくのを楽しみにしています。この重要な試みに私が小さな役割を果たせることを可能にしてくれた日本の友人、同僚のみなさんに深く感謝します。
                             <日本語訳 南 博文>
2002年9月
                                ロジャー・ハート

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あとがき

 本書は、ロジャー・ハート著『子どもの参画』(萌文社2000年10月刊行)に触発されて編まれている。ロジャー・ハートの子どもの参画論は、90年代から一部関係者によって日本でも「参画のはしご」として知られてはいたが、先の翻訳本(以下ハート本と略称する)刊行によって、その全貌が広く知れわたるところとなった。
 このハート本の翻訳を端緒に、「参画のはしご」図は単なる象徴化の一面に過ぎず、その奥行きは予想以上に深いのではないか、という指摘が読者から寄せられている。ハート本の全体構造が見えるにしたがい、「はしご」のモデルばかりが強調されてしまうと、ハートの言わんとする主張をかえって歪めるおそれさえあると危惧する声もあった。
 また、ハート本は難解で読破するのは容易ではないとの声もしばしば聴かれるようになった。世界数十各国をまたにかけて歩き、子ども参画の実際的場面に身を挺しながら、多様な実践事例を幅広く収集してきただけに、その内容は異なる政治や経済、文化などに特徴づけられたものであり、確かに理解するのが難しいという指摘もあながち否定できない。しかも、彼の子どもへの視座は彼が専門とする環境心理学の枠組すら突き抜け、他領域にまで踏み入れた包括的内容になっていたことも読解力と想像力を求められていた。

 読者から寄せられたこうした声質が、本書企画の構想をより鋭敏に練らせ、かつ刊行を急かせた背景の第一要因といえる。本書を編むにあたっては、多彩な執筆者を招聘した。目次から概観してもわかるように、学際のジャンルを超えての布陣となったのは、先のことを企図していたからに他ならない。15名の執筆者で臨んでも、ハートが提示していた分野のすべてをカバーするにはまだ過不足の陣容だったといえよう。
 ところで読者には、関心領域の精読より先に、他領域の論稿からの一読をお薦めしたい。子ども・若者の参画という間口のひろがりと構造上の大きさに着目してほしいからである。たとえば、ハートのこだわりの核心とされる「コミュニティづくり」、「持続可能な社会の開発」「民主主義」「意思決定」「アクション・リサーチ」「関与」「ファシリテーター」等々を読み解くには、自己の関心領域のみに留保されてしまうと、切り刻んだコンセプトの迷路に入り込むようで視野を狭窄させるからだ。
 本書を編むにあたって第二に心がけてきたことは、ハート本とまじえて応えるという条件を執筆者に課したものの、解説のためのダイジェスト版に終始してはならないということにあった。欧米本の翻訳からストレートに国内適応理論として援用するといったありがちな方法論を回避するためである。日本各地のそれぞれの子ども・若者の参画の現状と実際場面をハートの参画理論から類推して裁断してしまうというような方法など、硬直した形式主義と模倣以外のなにものでもないからである。各執筆者には、ハートを語るもハートでは語れない日本における子ども・若者の参画の現状と課題を鋭意提示して、問題解決のための創造的な方策を示唆してもらいたいと依頼したのはいうまでもない。ハート本を読まれていない方にも配慮した、子ども若者の参加・参画に関心のある方なら誰もが読んでわかるようにと編集を心がけてきた。本書を通して、もし読者にその企図が伝わらなかったとしたら、編集した私たちの側に責任がある。
 本書が結果として、ハート本エキスの解釈と参画理論の諸課題提示という側面が濃厚になってしまっているというなら、子ども・若者の実際的な参画の場面を中心としたシリーズの刊行へと繋ぎ、その牽きがねになるよう私たち編者が無意識のうちに宿願していたからなのかもしれない。確かに参画の原理以上に重視されなくてはならないのは、参画活動そのものの内実であり、それに附随する方法論的アプローチである。しかし今回の内容では、そのことが総じて希薄であったのは自明のことである。そうであるなら、本書は続編スタートのための踏み台に位置されてくるものであろう。
 すでに本書を一読された方ならば、「参加」と「参画」の用語使用をはじめとする論点のズレが、ところどころちりばめられていることを察知されたのではなかろうか。あくまでも執筆者責任として、共同研究のスタイルをとらなかったことからして当然の帰結といえよう。それは編者にとって織り込み済みでもあったが、キー・コンセプトをめぐる執筆者間における認識には差異があって、用語使用に整合性がみられないとのお叱りを読者から受けるかもしれない。そもそも本書の表題からして、なぜ参加(あるいは「参加・参画」)ではなく参画なのか、そのことの説明不足による批判も覚悟のうえで、あえて読者判断の手に委ねたい。

 本執筆者15人の大半は、子どもの参画情報センターのアドバイザー、賛同者、呼びかけ人、メーリングリスト登録者によって構成されており、今回あらたに執筆者メーリングも立ち上げた。刊行にこぎつけるまでには、執筆者との連絡調整のみならず、自主的に中途原稿を公開し、批評も加えるという「斬新」なスタイルを採り入れて編集作業を試みている。
 本書は新谷周平、上平泰博、永島憲一郎の三名による編集作業となったが、参画情報センターの立ち上げ準備から今日にいたるまでの蓄積と成果をベースにしている。また会の今後の発展を期することも願って、「子どもの参画情報センター編著」がよりふさわしいとの考えに至り各執筆者の方々にも快諾していただいた。さらにハート氏の本書の巻頭に執筆いただいた「刊行によせて」の一文は、九州大学の南博文先生による多忙なハート氏への仲介の労と迅速な日本語訳によって実現した。
 名実ともに、この会を陰ながら支え応援してくださっていた方々との共有財産に依拠しての上梓であったことを、末筆ながら謝意をこめて記しておきたい。

 2002年10月1日
 ロジャー・ハート氏の来日を直前に控えて
                                上平 泰博・記