はじめに   目 次   あとがき

 

はじめに

生きがいをもって介護をしたい。
人に安らぎと希望を与える介護職でありたい。
生きることを共に創造していく介護職でありたい。
介護の仕事にたずさわる人であれば、誰もがそう願うことでしょう。
介護という仕事はまず、人と人とがおなじ目線で、対等に向かいあうところからすべてがはじまります。その働きかけあいは、のちに、本書で述べるように介護職と利用者とが、相互に発達しあうところに大きな特長があるのです。それゆえに働きがいも大きいのです。
ところで、人格と向かいあうということは、人間の尊厳性、発達課題からみた専門性が鋭く問われるということです。
 それだけに、介護福祉という労働の専門性とは逆行する労働条件にあって、燃え尽き、挫折し、または、働きがいを見失っていく仲間も多いことは事実なのです。
そこで、本書は介護福祉労働としての特性は何か、介護福祉要求の特徴は何か、介護福祉労働において基本的に問われる援助視点は何なのかを、事例分析を中心にあらためて見つめ直していくことを試みました。なによりも、介護福祉という仕事への確信と展望をもっていただくことを願ってです。
 そのために、事例に展開される豊かな介護実践をできるだけ概念化し、連関させながら、個々の介護実践に共通する意義と、その客観的効果を明らかにすることを意図しました。
 たとえば、「家事をしているだけで専門性といえるのか」、「不可視労働(仕事の内容や成果が見た目にはっきりそれとわからない)であるがゆえに客観的評価がむずかしい」、「家庭の延長だから、とりわけ専門性といえるものは必要ない」といった類の(ホームヘルパーの)家事援助への評価に対して、「家事といってもそこには、利用者一人ひとりの価値観の違い、個別性がある」、「単に清潔を保っているのではなく、全体として人間的復権をめざしている」と「専門性」を抽象的に述べても説得力をもたないのではないでしょうか。
 一口に介護過程といっても、そこにはさまざまな実践が展開していきます。そのさまざまな実践を共通する概念によって裏打ちして、さらに、その共通する概念の意義、連関性を多くの実践によって豊かにしてゆかなければなりません。本書は、そのための準備作業として理解していただきたいと思います。
 本書において介護福祉職として最初に取り上げている職種はホームヘルパーです。本書の全体をとおしては介護福祉職一般の事例を取り上げました。それは主に次の理由によるものです。
 援助形態からみてホームヘルパーに介護福祉労働の特長が集中的にあらわれているからです。もうひとつは、介護保険下において介護福祉労働の矛盾がより集中的にあらわれているからです(詳しくは石田・植田他著『介護保険とホームヘルパー─ホームヘルプ労働の原点を見つめ直す』萌文社、二〇〇〇年を参照してください)。
 以上の理由によって、まず、ホームヘルパーの援助場面からはじめていくことにします。
介護における共感と人間理解
  ―その人らしさを大切にし伸ばすこと―

 

目 次

はじめに
第1章 よいとこさがしの介護過程
      ─ホームヘルパーを題材に─
1 要求をどのように引き出していくのか
(1)人間の基本的要求
(2)わかったつもりの「安楽」されど「安楽」
(3)要求は段階的に出現してくるものでも理解されてくるものでもない
(4)すべては「気づき」からはじまる
(5)なぜ観察しなければいけないのかという目的意識性が試される
(6)問題さがしより、よいとこさがし

第2章 「気づき」という介護過程
1 何に気づくことが大切なのか
(1)「もう少しだけ生きていたい」
(2)何をやろうとして、しかし、できないで葛藤しているのか
(3)障害をかかえたその人の主体的・目的意識的な生活行為を介護する
(4)見直すことの大切さ

2 「手を出しすぎず目を離さず」ということ
(1)ホームヘルプ労働の基礎である観察・コミュニケーション・見直しが奪われた
(2)庭の草取りを介護過程とみるか「『援助』に該当しない行為」とみるか
(3)問題は「目的意識性を奪う」こと
(4)介護の中に暮らしがあるのではなく、暮らしの中に介護がある


第3章 自発性が芽生えるための介護過程
―生活経験を主体的に意味づける―
1 生きる意欲と生きている喜びを取り戻すための援助
(1)「援助される人がどのような立場にあったのか」
(2)「生きている喜びを取り戻してあげたい」
(3)当事者から家族に働きかけるための援助
(4)主婦として主体性をもった生活
(5)生きることから生きてゆくことへ

2 利用者が生活経験を主体的に意味づけしていくための家事援助
(1)第一過程
(2)第二過程
(3)第三過程
(4)第四過程
(5)第五過程
(6)第六過程


第4章 目的意識性を育てる介護過程
─内的な発達要求、対象的活動への注目─
1 人間の特性と発達要求のあらわれ
(1)労働と発達
(2)表象、目的意識性という特性
(3)「その人らしさ」とは何かを考えるまえに
(4)自己を対象化していく
(5)個々人の潜在的能力を掘り起こしあい、生かしあい、束ねていく
(6)発達―適応
(7)問題行動を内的な発達要求のあらわれとして理解する

2 できるところの観察、よいところの評価、やりたいと
思っている内的要求の把握、よいところを生かしあう集団づくり
(1)あらわれやすく、かつ、拭いきれない心理
(2)向きあっているようで向きあっていない
(3)「できない」「やらない」「つたわらない」ことに視点が向かっていく
(4)相手の気持ちを求めたくなるとき
(5)対象的活動への注目
(6)何を発達ととらえるか

3 見通しと、それによる主体的実践を援助していく
(1)「理解能力が欠けている」という評価
(2)見通す力
(3)「入りたいけど入れない、でも入ってみたい」
(4)できないのではなく、何をどうすればよいのかがわからない
(5)内面的要求に依拠しながら見通しがもてるような方向性で働きかける
(6)利用者の内面より、外的に見えやすい問題事象が問われていきやすい

第5章 その人らしさを生かしあう・輝かしあう介護過程
1 自分の力を生かす・生きてくる 
(1)「施設不適応」をどのようにとらえるのか
(2)働きかけようとする対象に注目する
(3)誰にとって何が問題なのか
(4)達成感の共有
(5)自己の存在が相手に何かを与えることを知れば人は変わる

2 生活史において、その人がもっとも輝くところ、もっとも
その人らしいところ、その時代と今を重ねあわせ、その人を理解する
(1)今を輝かす
(2)「その人らしさ」って何
(3)生きがいの結晶
(4)「全体を見よ」といいながら


第6章 生きがいの節目をつないでいく介護過程
1 かけがえのない時間、「居がい」のある空間
(1)生への意欲
(2)希望ということ
(3)介護の真髄を問い直そう
(4)生活空間とは何か
(5)どこへ、どうつないでいくのか

〈補論〉生活行動へと結びつける原動力は何か
(1)人が自分の気持ちに気づくとき
(2)介護要求の特徴
(3)生活行動へとつなげる原動力


第7章 願いをわかちあう集団づくりと生活基盤を創造していく介護過程
1 見失われようとしている介護福祉の労働対象
(1)人格と人格が向かいあう
(2)主客転倒した労働対象
(3)身体的障害へ向かいあうとはどういうことなのか
(4)「障害」をどのようにとらえるのか
(5)社会的喪失と孤独
(6)「社会制度の谷間」にある人々


第8章 介護福祉という仕事の特長と介護福祉職の発達
1 介護福祉労働の特長
(1)労働対象・労働目的からみた特長
(2)労働の方法・労働力からみた特長
(3)専門性を社会的に保障していくために

2 家事援助とは何か、ホームヘルパーとは何か
(1)「社会制度の谷間」にある高齢障害者を援助してきたホームヘルパー
(2)家事援助の五つの専門的機能
(3)ホームヘルパーの労働対象は食材料とか汚物とか身体という物ではない
(4)家事行為を媒介に個々人の生涯発達と生存権を保障する
(5)連携と代行の違い─何を専門と意識するのか
(6)ホームヘルパーとは何か

おわりに─あきらめない、流されない、燃え尽きない
(1)何のための介護福祉職なのか、自分に何ができるのか
(2)介護福祉職の働きがいの源泉
(3)介護福祉の職場における民主主義

 


あとがき

 介護報酬の見直しの議論があちらこちらで聞かれるようにようやくなってきました。
 今後の議論のあり方が今、鋭く問われています。
 そのさい、介護とは何か、介護福祉労働とは何かが改めて問われてくるでしょう。
 介護報酬の算定基礎となる介護過程の理論的な体系化が問われてくるでしょう。
 介護福祉労働の各過程において必須の介護内容とその連関性、各過程において必要とされる介護福祉労働の量、質、これらを体系化していくことが問われてくるでしょう。
 なぜなら、介護福祉の労働過程はますます細切れにされ、介護福祉労働は定型化された(マニュアルどおり、時間内に仕事をこなす)部分労働を担う低賃金非熟練労働に転化されようとしているからです。
 たとえば、介護報酬「訪問介護3類型の一本化」は一見、家事援助の身体介護に比した差別性を解消するようにみえて、実は、定量同質介護ならぬ低量低質介護として低位に平準化された介護報酬の一本化になっていく危険性は少なからずあるのです。それ以上に、「一本化」とは、介護の各過程において必須の介護内容とそれを担う介護福祉労働の質、量の違いを無視した単一の介護報酬=「一本化」になっていく危険性もあるのです。いわば、専門性の質的差異を問わず、誰であろうと単一の時間単価を定額払いする時間ぎめ賃金支払いと同じです。
 介護福祉をめぐる社会的課題はあまりに多いのですが、たとえば、介護報酬をめぐる実践は、「賃金、処遇面からみた社会福祉労働の公共性」を回復させ、賃金の男女差別などの不公平性を解消していく社会的意義を担っています。
 介護福祉という共通の職種を軸にした創意・実践の結集によって、介護福祉労働者の社会的地位の向上、労働の量質的な向上にむけてこれからも実践を積み重ねていきたいと思います。
 さいごになりましたが、本書は萌文社の谷氏、下島さんの温かい励ましに支えられて上梓することができました。岸本正義氏には本書の目的に沿ったカメラアイでとらえた写真を数多く提供していただきました。社会福祉法人「ゆいの里」のみなさんは、その撮影にこころよく協力してくださいました。あらためて感謝申し上げます。ありがとうございました。

 二〇〇二年三月
   石田 一紀